猛暑の花、新聞には載りませんでした。
こんな暑さは体験したことがない。どんなに暑くても家中の窓を開けて網戸から風を取り
込んだり。母が元気な頃は、ひんやりする廊下に二人してねっころがったりして
暑さをしのいだ。年月を経てこの暑さは身にこたえる。なにしろ、涼風ではなく熱風なの
だからたまらない。近頃は、自室にこもってエアコンと仲良くしている。そのエアコンが
、もう年で、外の熱に負けて温度が下がらない。エアコンがあっても、熱中症にかかりかけ
たこともあった。異常気象とかで、世界中気候が狂気のように猛威をふるっている。自然
の力には逆らえないと、この年になって知った。時折東京の息子から電話がある。むこ
うもやはり猛暑のようだ。3歳の孫娘は、電話に出るたびにのびのびと成長してい
るのがわかる。なにしろ、ちょっと前までは、親にいわれた言葉をまねするだけだったの
に、いまでは、適材適所というか、その場にふさわしいせりふをいう、それも親のいいな
りにはなっていないからおもしろい。電話に出そうとしてもにげまわる、なーんですかー
?とか何のことかわかりませーんといっては、跳ね回っているらしい音が届いてくる。
息子がいうのには、「クリスマスにサンタさんくるー?」「いい子にしていないと来ない
よ」「あっ、そー、じゃあプレゼントなんかいらなーい」といった具合だそうだ。ちょっ
と前は、「お空はどうして暗くなるの?」と訊かれてこまったというかわいい質問もあっ
たらしいが。子供の成長は、あっというまだ。少々暑くても体中をばねにして飛び回り頭
から大汗をかいてびしょびしょになっても平気で遊んでいる。この気候が、彼女
にとってはまさに夏なの。だ老いていく者にはわからない楽しい季節なのだろう。世の中
は危険がだらけで、こわい事件が一杯だ。のんびりしていると、彼女も大人の世界に
顔を出しかねない。猛暑のなかで生き生きと花を咲かせようとしている孫娘(花音ちゃん
)の未来を摘み取ってはいけない。
小田嶋保子