ばん茶せん茶への投稿です。

じゃがいもの花
還暦を迎えた妹は、都会のマンションぐらし。長年都心への通勤に疲れ果て、お金は無いがゆとりを選んで、余暇を楽しんでいる。
田辺聖子氏の「列車の乗り換え」をした。
彼女から、時折、嬉しい電話が届く。
「あのね、食べた野菜の根を、プランターに植えてみたの。芽がでるか、どんな花が咲くのか、見たいのよ。」そう言って、何種類もの野菜を土に戻しては
「芽が出た、葉になった、どんどん伸びる、摘まずに花が咲くのを待つ、大根には、こんな花、レタスにはあんな花」と
けなげな、目立たないが、可愛い野菜達の花の様子を伝えてくれる。
更に外出時に出会う鳥達の話も加わる。
「電線の雀やからすとメと目があった。チョコチョコあるく彼等の様子をじっとみていた。
6階の部屋にすずめ、猫、トンボが入って来て、逃げもせずに、家中見学して行くの。トンボ以外は、必ず、振り返って、目と目が会うの。そしたら、彼等、ぎくっとして、固まって、警戒の目で見て、安全だと分ると、事もなげに出て行ったり、すりよってきたり、おもしろいのよ。」と
自然に生きる動植物の「種の保存の姿に見ほれ、時の流れ方の違いに、驚かされている。
最近「ねえねえ聴いて、じゃがいも、花が咲いて、なんと 、実が成ったのよ!」と歓声が届いた。
「野生の小動植物を観察しながら、のんびり過ごす、こんな至福な時を過ごすのが、人にも大切なのよね」。しみじみ語る。
いずれ年金が下りるまで仕事をしなければ、餓死するので
「勿論、働くけど、食べていけるだけの収入さえあれば良いのだから、あくせく働く事はしない。」と語る。
私は、既に年金暮らし
。やっと「老い」という列車に乗り換えた。
目と目が会う体験は無い。
視覚以外の五感が、未だ残っているこの地の自然を捉える。
白杖の音と共に、体内に「アー、皆生きている。私も生きている!」
「自然に、十分自然に」(志賀直哉)と嬉しさに満ち溢れる道を、私も歩んで行こう。

小田嶋保子 62歳 無職
花巻市下幅4−10
郵 025−0068
電 0198−24−5213
2011年7月12日午前4時54分32秒